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天才の閃光-2

吉田保夫とのフルコンタクトは、当時同時期に中津と上新庄で工事中の現場があったため、お互いの現場を行き来してからであった。自分の方は普通に工務店が施工していたのだが、吉田保夫の方は何と自主施工であった。フリードラフトマンを経て建築家?として走り始めていたころであったが、自主施工はまるで辞書になかったため驚いた。
その現場光景も独特だった。なんというかコンクリート打ち放しの青白い空間は、無口な理学者のようであり、同時に物憂げな少女の冷気も放っていた。これはただ者ではないぞ感満載。

その後も何軒か建築を見せてもらったが、変わらずの挑戦的な自主施工は、自分には出来ないだけに魅力的であった。そこで触れておかなければならない光景があった。これは現場に限らず特に事務所でそうであったが、吉田保夫のカリスマ性に魅入られるように、入れ替わり、立ち代わり多くの若者(建築家の卵)たちが集って熱気に満ちていたことである。田舎者で元来の人見知りである自分はその熱気の直中には入れなかったが、十分その雰囲気を甘受できたことは幸運だった。

しかしその天才は建築よりもインテリアで際立っていた。梅田、難波、上六、空堀と、大阪市内にちりばめられた地雷のような濃密な空間は、それこそ怪しげで、殺気立っていたが、同時に妖艶な魅力に溢れていた。その薄暗い煙の中に吉田保夫はどこかはにかむように、ほほ笑んで立っている。そのほほえみは50億光年先を見据えた弥勒菩薩だったのか、あるいはほとばしる激情をほほえみで押し隠した現代のカラバッジョだったのか?