シヴィルサーバントとオピニオンリーダー

建築界に激震です。それも設計界では(施工業界ではゼネコン談合問題等常連?だが)、阪神大震災のような大災害時以外では、前代未聞の(一般メディアでの取り上げられ方も含め)構造計算書偽造問題です。ここで多くの皆様にはっきり言明しておきたいのは、今までにも水面下ではこのような問題は数多くあったかのような報道がなされていますが、少なくとも建築家界ではそのようなことはありえないということです。今回の問題は複合的犯罪です。

これまでにも建築界で、一見するとこれと同じようなような問題が取りざたされたことはあります。しかし多くは業者の設計施工ゆえの問題であったり、施工性の問題であったり、また構造基準の設定問題でした。設計者にとって設計図は神聖なものです。一般的に構造家も含めた設計者は技術に対して真摯です。勿論構造家のセンスによって許容範囲内で、構造メンバーが変わることはあります。しかし今回のような改ざん問題は論外で、繰り返しますがこれはミス入力ではなく故意に行われたのなら犯罪問題です。その辺は是非皆さんに御理解いただき、冷静に成り行きを見ていただきたいと思います。

強いて私見で分析しますと、建築に対する意識の問題です。建築を単なる事業(勿論それも否定はしませんが)の内の商品だと捉えすぎると、このような事態が起こりがちだろうと想像されます。社会の中で建築が三次元的に存在することは、多かれ少なかれ人々に何らかの影響を与えているのです。その意味では都市におけるもう一つのオピニオンリーダーであるともいえるのです。また機能的には人々の生活を支える立派なシビルサーバントであるともいえます。こう考えると、これは関係者に限らず都市全体が、合理性への関心は高いのだが、建築に対して、先の両方面の役割があることへの慢性的欠如感を起こしていることが根底的に問題なのかもしれません。どうか建築を愛して下さい。

内蔵・外蔵

20世紀が領土の陣取り合戦、思想の浸透合戦を展開した、いわば最後の「外蔵」を求めた世紀なら、21世紀は「内蔵」を高める世紀になるだろう。しかし依然として人類が、人間という欲望の動物であることに変わりはない。ただ戦略が変わろうとしている。地球上が、グローバルマネーのインサイダー取引市場と化したと思えば解りやすい。 先日もテレビで、ゴールドマンサックスという外資が東北のひなびた(失礼)温泉の再生を密かに目論んでいる番組をやっていたのを、憶えておられる方も多いいだろう。これなどは正しくスパイ天国だといわれる程無防備な日本での、外資ステルス作戦、インサイダー作戦である。全てにおいて一概に悪いと言っているわけではないが、これまでなら考えられない場所、業界でも、いつも間にか巨大マネーのターゲットになってくる。願わくば、北海道の旭山動物園の再生のような「内蔵」の強化によって成就した成功例報告をたくさん聞けるといいのだが・・・・。

翻って建築界。世界デザインで言えばモダニズムデザインがグローバリズムとして一応の世界制覇を果たしたのが20世紀の成果であるが、次段階となる21世紀的課題とも思える、昨今のランドスケープへの関心高さ、サスティナブル思考の隆盛などが、抽象化された「内蔵」志向の一端として顕現していると言える。日本的建築界でもオス的建築からメス的建築までの多様な幅、スタンスの許容力が増加するだろう。 たとえば先日も触れた2人の巨匠であるが、いわゆる丹下系雄性の一人勝ちから村野的雌性の復権へといえば大袈裟か。言い換えればドライからウエットなデザイン、思考への見直しが望まれるだろうということ。

いくつかの例を挙げたが、あくまで抽象的私的造語として「内蔵」「外蔵」と言っている。まずは自身のフィールドである建築デザインの世界においての「内蔵」充実を計るべく新建築を模索して行きたい。